「ちがうよ。遥か遠く、の遥だよ」

すると、彼は今書いたばかりの文字を左手の指先で撫でるようにして丁寧にかき消し、今度は『遥香』と書いた。

わたしは手を伸ばして、『香』の字をそっと消す。

『遥』という文字を、彼はまるで宝物のように両手で包み込んだ。

それから、小首を傾げてわたしを見る。

細くて柔らかそうな茶色い髪がふわふわと揺れて、柔らかい冬の陽射しを受けて金色に透き通っていた。

色の薄い瞳も、宝石みたいにきらりと輝いている。

思わず見とれていると、彼がふわりと笑った。とろけそうな笑みだった。

天使みたい、ともう一度思う。

本当に、なんて綺麗な男の子だろう。

見た目だけではなくて、その笑顔の透き通った綺麗さにわたしは言葉を失った。

硝子細工のように透明で綺麗で、でも少し力を込めすぎると脆くも崩れてしまいそうな、儚くて繊細な笑み。

誰かが大切に大切に抱きしめて、守ってあげないと、すぐにも壊れてしまいそうな。