なにかついているのかと思って右手の指先で頬に触れると、ひんやりと濡れていた。

「……そっか。わたしも泣いてるもんね」

おかしくなって、小さく笑う。

「ひとのこと言えないよね」

笑いながら言うと、彼も、ふっ、と息を吐いた。

彼が目を細めた拍子に、またぽろりと涙がこぼれる。

なにか悲しいことがあったの? と訊こうと思ったけれど、やめた。

涙を流すのは、悲しいときばかりじゃない。

嬉しくて泣くことだってある。

この子の涙の理由が嬉しいことだったらいいな。

目の前でぼんやりと佇んでいている男の子に、わたしは別の言葉をかけることにした。

「はじめまして。わたしは広瀬遥っていいます」

初対面の人に出会ったらまずは名乗りなさい、と幼い頃から親に言われていたので、わたしはいつもの癖で彼に名前を告げた。