地下鉄に揺られること約二十分。家の最寄り駅に着いて、改札を出た私は、波立って荒れ狂う心を静めるために、秘密の場所へと足を向けた。

家に向かう道を、途中で左に曲がる。

車一台通るのがやっとの、このあたりの住人しか利用しない細い道を進む。

その先には、今は誰にも使われていない公園があった。

わたしが幼いころはみんなが集まってくる場所だったけれど、十年ほど前に、遊具が古くなって危険ということで使用禁止になり、子どもたちが遊ばなくなった。

今は誰も訪れる人はいない。

だからこそ、わたしはここに来る。誰にも顔を見られたりしない、誰にも声を聞かれたりしない、わたしだけの秘密の場所。

公園の真ん中にある一本の桜の木。

両手を回しても届かないくらいに太い幹をした、古くて大きい木だ。

春になると淡いピンク色の花を空いっぱいに咲かせ、夏になると鮮やかな緑の葉を枝いっぱいにつけるけれど、今は全ての葉が落ちた寒そうな姿をしている。

その根本に腰をおろし、太い幹に背をもたれて、私は目を閉じた。