衝撃と動揺で固まってしまったわたしをよそに、天音がふいに真面目な顔になって、ペンを動かし始めた。
『最初に会ったとき、僕が歌ってたの覚えてる?』
わたしはまだ動揺から抜け出せないまま、こくりと頷いた。
実はずっと気になっていたのだ。何年も前から声が出なかったはずなのに、あのときはどうして歌ったいたのだろう、と。
『この公園は、翔希が怪我をした公園なんだ』
わたしは驚きに目を見開いた。
「え……、そっか、そうだったんだ……」
『僕は定期的にここに来ることにしていた。自分の罪を忘れないために』
天音はゆっくりと瞬きをしながら書き続ける。
『でも、あの日、木の上から、子どもみたいに大声で泣いてる遥を見て、あんまり悲しそうだから、慰めたくなった』
誰もいないと思って遠慮なく泣きじゃくる姿を、上からずっと見られていたのかと思うと、今さらながらに恥ずかしくなってきた。
『どうやったら泣き止んでくれるかな、少しでも悲しみを忘れさせてあげられるかな、って必死に考えて、気がついたら歌ってたんだよ』
わたしは言葉もなく天音を見つめる。彼はちらりと顔を上げてわたしに微笑んでから、また下を向いた。
『再会した日に、あかりさんの店でピアノを弾けたのも、遥が演奏を頼まれて震えてたから助けたくなって、だから弾けた。今日の演奏会もそうだよ』
頭上から降り注ぐ光が、天音のノートを、そこに書かれていく文字を明るく照らし出す。
『遥には特別な力があるみたいだ』
「特別……」
思わず読み上げると、天音が頷いてくれた。
特別、という言葉を人からかけてもらったのは、初めてだった。自分のことをずっと平凡でつまらない人間だと思っていたから、彼に特別だと言ってもらえたことが、泣きそうなほど嬉しい。
『最初に会ったとき、僕が歌ってたの覚えてる?』
わたしはまだ動揺から抜け出せないまま、こくりと頷いた。
実はずっと気になっていたのだ。何年も前から声が出なかったはずなのに、あのときはどうして歌ったいたのだろう、と。
『この公園は、翔希が怪我をした公園なんだ』
わたしは驚きに目を見開いた。
「え……、そっか、そうだったんだ……」
『僕は定期的にここに来ることにしていた。自分の罪を忘れないために』
天音はゆっくりと瞬きをしながら書き続ける。
『でも、あの日、木の上から、子どもみたいに大声で泣いてる遥を見て、あんまり悲しそうだから、慰めたくなった』
誰もいないと思って遠慮なく泣きじゃくる姿を、上からずっと見られていたのかと思うと、今さらながらに恥ずかしくなってきた。
『どうやったら泣き止んでくれるかな、少しでも悲しみを忘れさせてあげられるかな、って必死に考えて、気がついたら歌ってたんだよ』
わたしは言葉もなく天音を見つめる。彼はちらりと顔を上げてわたしに微笑んでから、また下を向いた。
『再会した日に、あかりさんの店でピアノを弾けたのも、遥が演奏を頼まれて震えてたから助けたくなって、だから弾けた。今日の演奏会もそうだよ』
頭上から降り注ぐ光が、天音のノートを、そこに書かれていく文字を明るく照らし出す。
『遥には特別な力があるみたいだ』
「特別……」
思わず読み上げると、天音が頷いてくれた。
特別、という言葉を人からかけてもらったのは、初めてだった。自分のことをずっと平凡でつまらない人間だと思っていたから、彼に特別だと言ってもらえたことが、泣きそうなほど嬉しい。