夢のように美しい音の波に身を委ねていると、ふいにピアノとは違う音が耳に忍び込んできた。

隣に目を向ける。――天音が歌っていた。

唇を薄く開けて、目を閉じ、睫毛をかすかに揺らしながら、歌っている。

細いけれど、ピアノの音にも決してかき消されない、よく通る声。

そっと柔らかく肌を濡らす霧雨のような、穏やかに降り注ぐ春の木洩れ陽のような、優しい優しい歌声。

きっと天使の歌声ってこういう声なんだろうな、と思った。

久しぶりに声を出したからか、時々かすれてしまうけれど、天音はとても幸せそうに微笑みながら歌っている。

よかったね、と心の中で語りかける。大好きな歌とピアノにもう一度ちゃんと出会えてよかったね。

また涙が込み上げてくる。

こらえるために、わたしは上を向いた。

渦を巻くようにして天へと昇っていくような、完璧な音楽。

震えがくるほど綺麗で、わたしは目を閉じて、天から降り注ぐ音の雨を全身に浴びた。

春の陽射しような優しく美しい音の向こうに、まばゆい光が見えた気がした。

わたしたちの未来を明るく柔らかく照らし出してくれる、希望の光。