それがわたしの最後の発表会になった。

家族や先生やたくさんの観客の前で情けない姿をさらしたことが、どうしても我慢できなくて、二度とピアノは弾きたくないと思って教室をやめたのだ。

そのことがずっと忘れられなくて、心の中でいつまでも抜けずにずきずき痛む棘のようになっていた。

だから、今日の演奏会でこの曲を無事に弾くことができたら、わたしは変われると思ったのだ。思っていたけれど、今になって怖くなってきた。

一度あんな大失敗をしたのに、今度は成功するなんて思えない。

でも、みんなが期待に満ちた目でわたしを見ている。

弾かなきゃ。弾くしかない。あんなに練習したんだから大丈夫、と必死に言い聞かせる。

わたしは自分を落ち着かせるために、目を閉じてふうっと息を吐いて、それから大きくて息を吸って、ゆっくりと瞼を上げた。

それでもわたしの指は、情けないことに震えがやまない。

かたかたと震え続ける指先が、鍵盤の上をさ迷う。

顔が熱い。それなのに冷や汗が出てくる。頭がぼんやりする。喉がからからに渇いている。心臓が口から飛び出しそうだ。

極度の緊張のせいで、わたしはまたマネキンのように硬直してしまった。

やっぱりだめだ。わたしなんて、だめだ。変わるなんて無理だったんだ。わたしに弾けるわけない……。

「……はる、か」

わたしの思考を遮るように、声が聞こえた。驚いて顔を上げる。

そこには、喉をぎゅっと押さえながら眉間にしわを寄せて必死に声をふりしぼる天音がいた。

「だい、じょう、ぶ。はるか、なら、できる、よ」

かすれた声で、一言一言短く区切るように、確かめるようにゆっくりとわたしに話しかける。