気がついたら、足がかたかたと震えていた。膝ががくがくと揺れる。手の指もおかしいくらいに震えている。

どうしよう、これはだめた。もうだめだ。こんな状態でまともに弾けるわけがない。

あかりさんには申し訳ないけれど、辞退させてもらおう。ぼろぼろの演奏なんてしたら、お客さんに申し訳ない。だから――。

そのときだった。

震えて冷たくなっていた指先が、ぬくもりに包まれた。

反射的に目を向けると、そこには天音の笑顔があった。

わたしを安心させるように微笑んでひとつ頷いた彼は、ピアノに向かってゆっくりと動き出す。

されるがままになっているうちに、わたしはピアノの前に腰かけていた。隣には天音がわたしを見守るように立っている。

目の前には広げられた楽譜。わたしが家から持ってきて、さっき置いておいたものだ。

パッヘルベルのカノン。わたしの大好きな曲だ。

夢のように美しい旋律が次々に降り注ぐように繰り返され、少しずつ音が重なっていって、最後には壮大な音楽になる。

本来はバイオリンやチェロなどで演奏されたりオーケストラで演奏される曲だけれど、この楽譜はピアノの独奏のために編曲されたものだ。

聴いた瞬間に、なんて綺麗な曲なんだろうと思って、いつか弾いてみたいと思っていたから、中二の発表会の演奏曲に選んだ。

でも、たくさんの観客が見ている本番で、わたしは失敗してしまった。苦手な場所で指がうまく動かず引っかかってしまって、途端に頭が真っ白になって、わたしはピアノの前で固まってしまった。

マネキンみたいに硬直しているわたしを、先生が慌てて舞台袖に引きずっていくまで、ずっとそのままだった。