翔希くんのまっすぐな言葉を聞いているうちに、天音の顔がどんどんくしゃくしゃになっていった。

眉は下がり、唇は何かをこらえるように歪んでいる。

そして、透き通るような瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。それが呼び水になったように、一気に涙が溢れ出す。

翔希くんがおかしそうにくくっと声をもらして、

「兄ちゃんが泣いたの初めて見た」

と笑った。それから目を細める。優しげな柔らかい表情は、やっぱり天音に似ていた。

「……また歌ってよ、兄ちゃん。ピアノも聞きたい。うちの兄ちゃんピアノがめちゃくちゃ上手いんだぞって、おれけっこう友達に自慢してたんだからな」

天音はぼろぼろ泣きながら、こくりと首を縦に振った。

それを見て、なんだかわたしまで泣けてきて、嗚咽をもらしながら涙を流していたら、翔希くんに声を上げて笑われてしまった。

「なんだよ、二人して泣き虫なカップルだな。まあ、お似合いなんじゃない?」

否定しなきゃ、と思ったけれど、次々に込み上げてくる涙が邪魔をして何も言えない。

すると天音が、泣きながらペンを動かした。それから翔希くんにノートを押しつける。

目を落とした翔希くんが、あははと笑った。

「『カップルじゃない』って……そんな泣きながら必死に否定しなくても」

そう言って笑いながら天音に返されたノートのページが、ちらりと目に入った。

そして、端っこに小さく『まだ』と付け足されているのを、見てしまった。

わたしは唖然として口を開いたまま天音を見る。

彼は涙に潤んだ目でふふっと笑って、立てた人差し指を唇に当てた。