翔希くんがぱっと顔を上げ、天音をまっすぐに見て「ごめん」と言った。

「ごめん。おれ本当は、小さい頃から、サッカーより絵のほうがずっとずっと好きだった」

天音が大きく目を見開いた。

「だから……」

翔希くんがうめくような声でつぶやき、言いにくそうに顔を歪める。

「おれは、あのときの骨折を理由にして、今まで通りにサッカーできないだろうからもうやめたい、って親父に言った……嘘ついたんだ」

ひどくつらそうな表情だった。わたしの思いつきのせいで、翔希くんにこんな顔をさせているのだと思うと、申し訳なくて仕方がない。

それでも、天音のためにも、そして翔希くん自身のためにも、この問題は解決しないといけないんだろうと思う。自分の誰にも知られなくない部分、醜くて汚い部分をさらしてでも。

わたしと遠子と、そして香奈たちが経験したのと同じように。

「本当は、もうすっかりよくなってるよ。どこも痛くないし、違和感もないし、思い通りに動く。リハビリ始めて一年経たないうちに完全に元通りだった。サッカーやろうと思えば、全然できるよ」

翔希くんの言葉に、天音がほっとしたように肩の力を抜いたのがわかった。

でも、と翔希くんが続ける。

「もう治ってるのに、絵が描きたいから、時間があるかぎり絵を描いていたいから、何年も前の怪我を言い訳にしてるだけなんだ」

こんなことを口に出すのは、とてもつらいだろう。誰にだって、いくら家族が相手でも絶対に知られたくない部分がある。

それでも、今それをさらけ出す決意をしてくれた翔希くんは、本当に兄である天音のことを大切に思っているんだろうなと分かった。

「……おれの嘘のせいで兄ちゃんを傷つけてるってどこかで分かってたのに、自分のことを最優先にして、兄ちゃんの気持ち無視してた。本当ごめん」

翔希くんが口を閉じたので、沈黙が訪れる。

天音はこくりと頷いてみせた。気にするな、と言うように。

翔希くんは、言葉もなく頷き返して、それからまた口を開いた。