楽しそうに話す翔希くんと遠子の後ろを、わたしと天音は黙ってついていく。

二人は壁一面に飾られた絵ひとつひとつの前で足を止め、じっくりと眺めたあと、感想を言い合ったりしているらしい。

わたしも一応作品を視界には入れるけれど、いつも美術の成績は二か三のわたしには絵の善し悪しはよく分からず、「高校生でこんなに上手いのか、すごいなあ」という感想くらいしか持てなかった。

それは天音も同じらしく、歩きながらひとつひとつの絵を丁寧に見つめてはいるけれど、どこかぼんやりとしていた。

一通り作品を回ったあと、わたしは天音の手を引いて、まだ熱心に鑑賞している二人から離れた。

展示室の端にあったベンチに天音と並んで座り、翔希くんたちの様子を眺める。天音もじっと彼の姿を見つめていた。

「翔希くん、楽しそうだね」

天音がわたしを見て頷き、ノートを取り出して『びっくりした』と書いた。

『翔希があんな顔するの、初めて見たかも』

「そうなんだ」

『翔希は、』

そこで天音はペンを止めた。しばらくじっと紙面を見つめてから、ゆっくりと続ける。

『絵が好きなんだね』

わたしは「うん」と大きく頷いた。

「そうだよ。好きじゃなきゃあんなに集中して描けないって」

天音が翔希くんのほうに目をやり、こくりと頷いた。

『僕はずっと、翔希は行き場のない思いを絵にぶつけているんだと思ってた』

ゆっくりと続けて書く。

『僕のせいで大好きなサッカーができなくなっちゃったから、その怒りとか悲しみを絵にぶつけてるように見えた』

天音は顔を上げてわたし見ると、そっと微笑んだ。

『でも、違ったのかもしれない』