「おれは天音の弟で、芹澤翔希です。中学二年です。初めまして。チケット頂きました、ありがとうございます」

はきはきとしゃべって丁寧に頭を下げた翔希くんを、天音は面食らったような顔で見下ろしている。

分かるなあ、とわたしは笑いを噛み殺した。

兄弟が家族以外の人と話すのを見る機会はあまりないから、わたしもお兄ちゃんが外で大人っぽいしゃべり方をするのを見て不思議な気持ちになったことがある。昔はおんなにやんちゃだったのに、いつの間にそんな大人みたいな口きけるようになったの、と驚いてしまったのだ。

きっと天音 も今、そういう気分なんだろう。天音もお兄ちゃんなんだな、と思うと微笑ましい気持ちになった。

遠子と翔希くんは、天音がぼんやりしている間に、わたしにはよく分からない美術関係の話を始めた。

絵という共通の話題があるせいか、二人はすぐに打ち解けたようだ。よかった、と胸を撫で下ろす。

「じゃあ、そろそろ中に入ろうか」

しばらくしてわたしが声をかけると、遠子と翔希くんが頷いて会場に足を向け歩き出した。

「楽しみですね」

「そうだね。今年は上位賞のレベルが高いって言われてるみたいだよ」

「へえ、そうなんですか。上位賞って、どんな賞ですか」

「佳作以上の賞のことをまとめてそう呼ぶの。大賞とか優秀賞とか、あとは県知事賞とか。審査員特別賞とかもあるかな」

「すごいですね」

「あ、私は入選だから、ずっと下のほうだよ。でも、二年の先輩にすごく上手い人がいてね、いつも大きい賞とってて、今回もね……」