「天音は悪くないよ。翔希くんの怪我は、つらいことだと思うけど、でも天音のせいじゃない。天音をいじめた人が悪い」

……そんな薄っぺらい言葉では、きっと彼を救うことなんてできないと分かっていた。その苦しみは彼の中に深く深く根を張っていて、何も知らないわたしなんかの表面的な言葉なんかでは、きっとびくともしない。

分かっていたけれど、言わずにはいられなくて、絞り出すように言った。

でも、予想通り、天音は静かに悲しく頬笑むだけだった。

切なくて苦しくて、わたしはぎゅっと手を握りしめる。

どうすれば天音を救える?

どうすれば彼の心を、たった少しだけでも明るくすることができる?

全部の苦しみを消すことなんて、きっとできない。そんなに簡単なことじゃない。

でも、ほんの少しだけ、小さなきっかけだけでもいいから。

必死に考えを巡らせていたとき、ふいに、さっき見た翔希くんの姿が目に浮かんだ。

机の上に広げた紙に覆い被さるように背中を丸めて、黙々とペンを動かしていた翔希くんの後ろ姿。

その様子を、天音は『とりつかれたみたいに』と言っていたけれど、でも、あの背中は――。

他の何も目には入らないかのように真っ白な紙だけを見つめて、ただひたすらに手を動かし続けるあの背中を、わたしは知っている。