翔希がサッカークラブをやめた時の父さんの落ち込み方は、見ていられないくらいだった。

僕が学校でいじめられていたことを知られてしまったから、父さんも母さんも翔希も僕を責めたりはしなかったけど、僕は自分が全部悪いと分かっていた。

翔希は僕のせいで大好きだったサッカーを奪われた。それから翔希は塞ぎ込んで、学校が終わったらすぐに部屋に引き込もるようになった。

それまでは絵なんて全く描いてなかったのに、突然人が変わったみたいに、まるで何かにとりつかれたみたいに、一日中ずっと絵だけを描いている。

全部、全部、僕のせいだ。嫌なことから逃げ出すような、弱くて情けなくて自分勝手な僕が悪い。

翔希から大好きなサッカーを奪ったのに、僕だけが好きな歌とピアノを続けているわけにはいかないと思って、そのときにピアノはやめた。歌うのもやめた。

翔希が怪我の治療やリハビリで苦しい思いをしているのに、自分だけ今まで通りに生活するなんてできなくて、一日中誰ともしゃべらずに、ずっと下を向いて過ごしていた。

声なんかいらない、ピアノも歌もいらない、時分は何も楽しむ資格はないと思っていたら、気がついたときには、しゃべろうと思っても声が出なくなっていた。

それ以来ずっと、僕は一度も声を出していない。

父さんと母さんは心配して、病院に行こうと言ってくれたけれど、僕は拒否した。別に声が出なくても困らないし、ずっとこのままでいいから、って何度も何度も伝えたら、二人はそのうち諦めた。

僕は声を取り戻したいとは思わない。治りたくも治したくもない。このままでいい。

このままでいることが、僕が翔希に対してできる唯一の罪の償い方だと思っている。