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学校でたまにからかわれるのはつらかったけど、それほどひどかったわけじゃないし、まだ笑って受け流して我慢することはできた。

それに、僕にはピアノと歌があった。

母さんがピアノ教室の先生をしていて、家にはいつもピアノがあって、僕は物心ついた時から毎日何時間もピアノを弾きながら歌っていた。

ピアノに触れている間は、好きな歌を歌っている間は、嫌なことも全部忘れられたから、毎日つらさをリセットできていた。

翔希はピアノは弾かずに、幼稚園の時から毎日サッカー教室に通っていた。父さんが学生の頃からずっとサッカーをしていて、プロ選手になりたいと夢を見てたけど、なれなかったから、自分に息子が生まれたらサッカーをやらせていつかプロになって欲しいと思っていたらしい。

翔希は期待に応えて練習を頑張って、教室でもいちばん上手いと言われていた。父さんはすごく嬉しそうで、休みの日は必ず練習や試合を見に行っていた。

でも、今翔希は、サッカーをしていない。全部、僕のせいだ。

小学四年のとき、学校のない日に、僕は翔希と一緒に公園で遊んでいた。

その日は家にお客さんが来ていたんだけど、翔希が外で遊びたいと言い出して、でも父さんも母さんもお客さんがいるのに出るわけにはいかなかったから、僕が連れ出すことにした。

僕は翔希に付き合って遊びながら、心の中では、誰にも見られませんように、と必死で祈っていた。その頃は僕に対するからかいがエスカレートして、クラスの中心みたいなやつからいじめのターゲットにされるようになっていたから。

ガイジン、捨て子と大声で呼ばれたり、根拠もない悪口を言われたり、仲間はずれにされたり、無視されたり、教科書に落書きされたり、上履きをゴミ箱に捨てられたり、トイレの個室に閉じこめられたり。殴るとか蹴るとか直接の暴力はなかったけど、とにかく毎日毎日、一日に何回も、そういうことを色々されていた。