彼らが夢中になっているものは、見つけたんじゃなくて、生まれつき好きだったものだと思う。

何か趣味を見つけよう思ったり、なりたいものを探したりして無理に出会ったものではなくて、自然とそれを好きになったのだろう。

誰に言われたわけでも教えてもらったわけでもないのに、気がついたらどうしようもなく熱中してしまっていて、止められない。

そんなふうに、好きなものとかやりたいことは、自分の中から湧き上がってくるものなんだと思う。

そしてわたしには、今までひとつも、自然と好きになれるものや、どうしてもやりたいと思うこと、なりたいと思う職業がなかったのだ。

そんなことを考えながら遠子を眺めていると、その向こうに、グラウンドから彼女に視線を向ける彼方くんが見えた。

でも、絵に集中している彼女は、少しも気づいていない。

彼方くんはしばらく、黙々と筆を動かす彼女を見つめてから、すっと前に向き直り、ポールを持って助走を始めた。

それから彼が何度か跳んだ後、ふいに遠子がグラウンドには視線を投げた。

今度は彼方くんのほうが練習に集中していて、全く彼女のほうを見ていない。

遠子は空を舞うように跳んだ彼をじっと見つめてから、またキャンバスに向き合った。