天音がわたしを連れてきた場所は、予想もしなかったことに、なんと彼の家だった。

「え……っ、いいの?」

『芹澤』という表札のかかった門を前にして動揺を隠せないわたしに、彼はにこりと笑って頷いた。そしてそのまま門扉を開いて中へと歩き出したので、わたしは慌てて後を追う。

立派なお宅だった。赤茶のレンガの塀に取り囲まれた、真っ白な外壁の家、その周りには丁寧に手入れされた緑の芝生と植木と花壇がある。ものすごく大きいというわけではないけれど、とても上品な印象。

これが天音の生まれ育った家なんだ、と思うと感慨深かった。いかにも彼らしい雰囲気の家だ。

「お邪魔します」

タイル張りの玄関ホールに立って、天音が開いた扉の向こうに見える廊下の奥と声をかけたけれど、返答はなかった。

「誰もいないの?」

天音は首を横に振った。返事はないけれど、誰かいるということだろうか。

『上がって』という手振りをする彼に従って、わたしはもう一度「お邪魔します」と言って靴を脱いだ。