「謝らないで。わたしが勝手に、天音に頼まれたわけでもないのに色々調べて、天音の気持ちも考えずに押しつけたせいだもん。本当に無神経だったって反省してる。本当にごめん」

『遥のせいじゃない』

わたしの言葉を遮るように天音がペンを走らせた。それから『本当に』と書き足す。

『僕が全部悪い。僕の問題なんだ』

「天音の、問題……?」

思わず読み上げると、天音が困ったように笑った。

わたしの肩をぽんとたたいて、ゆっくりと歩き出す。ここでは人目もあるし邪魔になるから、場所を移すのだろう。

校庭を取り囲むフェンスの脇を歩いて、角を曲がると、そこは閑静な住宅街だった。天音が足を止め、電柱に身を寄せてまたノートを取り出す。

『治りたくない』

わたしは瞬きしながら、確かめるように何度も文字を目で追う。

「治りたくない……? 治らない、じゃなくて?」

天音がこくりと頷く。

『僕は、声を治したくない』

わけが分からなくて、「どうして?」とかすれた声で訊ねた。

『こんな声、いらないから』

天音が苦しそうに眉をひそめ、唇を歪めた。