天音が生徒玄関から出てきた。

ひさしから出るとぱっと陽が射して、日陰では薄茶に見えていた髪が、光に透き通る金色にきらめく。

彼は少しうつむきがちに、ゆっくりとした足どりでこちらへ歩いてきた。

周りにはたくさんの生徒たちがいるけれど、誰ひとり天音に話しかけることはない。たまにちらちらと視線を送る人はいるものの、まるで見えない壁にでも隔てられているかのように距離がある。

そして彼自身も、話しかけられるのを拒絶するような頑なな空気をまとっている。

数えきれないほどの人が溢れているのに、その真ん中でひとり、天音はひどく孤独に見えた。

ずきずきと胸が痛む。見てはいけないものを見てしまったような、知ってはいけないものを知ってしまったような、申し訳なくて気まずい気持ちに包まれた。

彼はずっとこんな学校生活を送っていたんだろうか。誰にも話しかけず、誰からも話しかけられず。

筆談ならやりとりをすることができるのだから、誰ともコミュニケーションをとれないなんてことはないはずだ。実際に、わたしやあかりさんとは普通に会話できている。

だから、彼がこんなふうに心を閉ざしているのは、もしかしたら声が出せないせいではなくて、他に理由があるのかもしれない。

そんなことを考えているうちに、天音がすぐそこまで来ていた。もうすぐ声が届くところへ辿り着く。

香奈と菜々美がわたしを振り返った。遠子がそっとわたしの手を離す。

わたしがこくりと頷くと、三人は「がんばって!」と声を合わせて、手を振りながら来た道を戻り始めた。

ここへ来るところまでは三人に付き添ってもらって、天音に話しかける前に別れよう、というのが約束だった。彼をむやみに驚かせたくない。