「それに、悠と比べるのは遥に失礼だよ。悠は真面目でしっかり目標を持って頑張っていて偉いやつだ。遥は周りをよく見ていて気づかいができて、自分よりも他人を大事にできる本当に優しい子だよ。いくら兄妹っていったって、二人とも別々の人間なんだ。一面だけ見て比べてどうこう言うのはよくないよ」

お父さんの言葉を聞いているうちに、目頭が熱くなってきた。

あまり会話をしないお父さんが、それでもわたしを見てくれていて、そんな優しいことを言ってくれたのが嬉しかった。

お母さんは、お父さんが話している間ずっと唇を噛みながら聞いていて、しばらくするといきなり踵を返してリビングを飛び出していった。

その後ろ姿をしばらく見ていたお父さんが、今度はわたしに向き直る。

「ごめんな、遥。今まで何も言ってやれなくて。ずっと我慢していて苦しかっただろう」

お父さんの大きな手が、わたしの頭をゆっくりと撫でた。小さい頃を思い出して懐かしくなる。

「父さんは仕事でいつも帰りが遅くて、家のことは母さんに任せっぱなしになってしまっているから、母さんが言うことに父さんが文句をつけるのはいけないと思っていて、ずっと何も言えなかった」

お父さんが申し訳なさそうに言った。

「でも、さっきのはさすがに聞いていて耐えられなくなってな、思わず止めに入ってしまった。遥は、お母さんからいつもあんなことを言われていたのか? つらかっただろう、ごめんな」

お父さんの静かな声を聞いていると、ぽろりと涙がこぼれた。制服のシャツの袖でそれを拭う。

「母さんも悪気があるわけじゃないんだ……。遥のためを思っているっていうのは本当だよ。ただ、言い方がよくないよな。父さんからも言っておくから」

その言葉に、わたしは思わず首を振った。

「いい、大丈夫。それに、お母さんそんなこと言われたら傷つくだろうし……いいよ、わたしは平気だから」

わたしのことでお父さんとお母さんの空気が悪くなったりしたら嫌だ。

そう思って答えたけれど、お父さんは「よくないものはよくないから」と微笑んだ。