「あー、うん、行きたいけど、今日放課後に進路面談で呼び出されてて」

「あっ、そうなの? また?」

「うん……まだ志望が決まってないから」

「そっかあ。あの先生しつこいらしいもんね、がんば」

「うん、がんばる」

「てか、志望なんて適当に書いちゃえばいいのに」

「うん、そうなんだけどね。でも、そろそろ本気で考えなきゃいけないし」

「真面目だねえ」

香奈が感心したように言ったけれど、そんな偉いもんじゃないよ、と心の中で返す。

みんなが当たり前のように決めていることを決められずにいるから、せめて真面目に考えようと思っているだけだ。

「てか、面談終わるまで待ってようか? それから一緒に行こうよ」

「えっ、それは悪いからいいよ! どれくらい時間かかるか分かんないし」

「そっか、じゃあ、まあ仕方ないね」

香奈はあっさりと笑って、菜々美と話しながら廊下を歩いていく。

その後ろを追ってゆっくりと歩き出したとき、横にいた遠子が「遥」と小さな声でわたしを呼んだ。

「ん?」

「あのね……なんか、大丈夫?」

唐突に問われて、わたしは目を丸くした。

遠子はどこか心配そうな顔でわたしを見ている。

「もし違ってたらごめんね。遥、最近なんか悩んでたりしない?」

なんで? と訊ね返したけれど、うまく声にならなかった。

「うん……なんか、ちょっと、いつもと違うような気がして。いつも通り笑顔だし明るいけど、ちょっと、なんか空元気みたいな感じがして……」

うまく振る舞っているつもりだったのに、遠子に見抜かれていたことに気まずさを覚える。