「あの……もし自分では行きにくいなら、わたしも一緒に行くよ。あと、調べたら親の同意がいるみたいなんだけど、言いにくいならわたしが代わりに電話するし……」

そのとき、わたしの言葉を遮るように、天音がペンをとった。

そして、失声症の治療法についてまとめたページの下に、勢いよく書き殴る。

『いらない』

今まで見たことがない、鋭くて激しく尖った筆致。わたしは絶句した。

思いも寄らない反応を受けて、心臓が暴れ始める。かっと顔が熱くなった。

それをごまかすように、わたしは天音に必死で語りかける。

「でも、ちゃんと治療すれば治るんだよ? しゃべれないと不便なこともたくさんあるでしょ?」

彼は唇を噛みしめたままうつむいている。まるでわたしの言葉なんか耳に入れたくないというように。

「……あの、別に絶対に病院に行けって言ってるわけじゃないから……。 でもほら、せっかく調べてきたから、参考までに見てみて……」

するとまた天音がペンを動かし、今度は震える文字で書いた。

『頼んでない』

ずきっと胸に棘が刺さる。

痛みに言葉を失っているうちに、天音はがたんと立ち上がり、荷物を持って飛び出すように出て行った。

わたしは反射的に立ち上がったものの、追いかける勇気などなくて、よろよろと腰を落とした。

背もたれに背中を預けると、腕が力なくだらりと垂れた。

よかれと思ってやったことなのに、天音を怒らせてしまった。たぶん、傷つけてしまった。

失声症の原因は、きっと誰にも触れられたくない部分だったのだ。それなのにわたしは何も考えずに、社会不安だとか心的外傷だとか無神経な言葉を並べてしまった。他人から言われて心地のいいことではないはずだ。

それに、病院に行ったほうがいいなんて言われて、いくら心配からだったとはいえ、彼はすごく嫌な気持ちになっただろう。