天音の声は、たぶんもう何年も出ていないのだろうと思う。筆談するときや唇の動きだけで言葉を伝えるときの慣れた様子や、ノートの使い込まれ方を見ると、ここ数ヶ月のことではないように見えるからだ。

失われてしまった彼の声を元に戻すためには、やっぱり病院に行かないといけないのだと思う。そのことはきっと天音だって分かっているはずだ。

でも、心療内科や精神科となると、なんとなく敷居が高い感じがする。なかなか行きづらい場所だと思う。だからきっとこれまで、声が出せないままで耐えてきたのだ。

いつまでも声が出ないままだと、筆談はどこでもできるわけではないからコミュニケーションをとるのも大変だし、きっと学校でも苦労しているだろう。

わたしがなんとかしてあげなきゃ。それがきっと彼への恩返しになる。

改めて決意を固めたわたしは、失声症の症状や治療法をメモ帳にまとめ、このあたりで評判の高い精神科や心療内科を調べて一覧を作った。

これを渡せば、きっと天音は喜んでくれる。早く会いたい。

わたしは期待に胸を踊らせながら、いつになく熱中していた。


――このことがわたしと天音の関係を大きく歪ませてしまうなんて、思いもせず。