「そうそう。医学部に通ってる優秀なお兄ちゃん。よく兄妹で比べられるから勝手にコンプレックスもってるんだけど、でもお兄ちゃんはしっかり者で優しくてよく遊んでくれたし、昔から仲良しだよ」

『いいお兄さんだね』

「まあ、そう言うとなんか恥ずかしいけど」
照れ隠しに、逆に天音に訊ねる。

「そういえば、天音は? 聞いたことないけど、兄弟とかいるの?」

すると彼は、ふっと軽く目を伏せた。長い睫毛が頬に影を落とす。

「……天音?」

どうしたのかと声をかけると、彼ははっと顔を上げて笑った。それからペンを動かす。

『いるよ。弟がひとり』

「へえ、そうなんだ。いくつ?」

『ふたつ離れてるから、今、中二』

「そっかあ、仲はいい? 天音に似てる?」

わたしの言葉に、また天音が目を伏せた。少し止まってから、ゆっくりと答えを書く。

『あんまり似てないかな。仲も、あんまりよくない、っていうか、あんまり話さない』

力のない文字だった。わたしは悪いこと聞いちゃったかなと思いつつ、意識して明るい声を出す。

「そっか、わたしとお兄ちゃんも全然似てないよ。まあ、恥ずかしいから似てないほうがいいけど。それに、家にいてもあんまり話さないなー。ちっちゃい頃ならまだしも、高校生にもなると兄妹でしゃべることなんて話題ないもん」

そう言うと、天音は目を丸くして、それからおかしそうにふふっと笑った。彼の笑顔が戻ったことにほっとする。

そのとき、ふいに「あれっ?」と後ろから声が聞こえた。

振り向くと、同じくらいの年の男の子がこちらを見て目を丸くしている。