そういえば遠子がこの前言っていた。彼女は絵が好きで、できれば大学でも美術の勉強をしたいと思っているけれど、親に反対されていると。

ちゃんと仕事があるかも分からない世界に飛び込めるほど才能があるのか、と言われて、ショックだったけれど一理あると思った、と苦笑していた。

夢があっても、それを周りに認めてもえらえるかは分からないし、叶うかも分からない。好きなこと、やりたいことをちゃんと持っている遠子も、実はそのことで悩み苦しんでいるのだ。

「……悩んでるのはわたしだけじゃない、ってことか」

すとんと胸に落ちて、わたしはそう呟いた。

わたしはきっと、自分だけが不幸だという被害妄想にとらわれているのかもしれない。

そう考えて、わたしの悩みは甘えだったのかな、と自分に呆れた矢先だった。

『でも、遥の悩みは遥だけのものだから、遥の苦しみを軽く扱うこともないよ。ずっと悩んでたなら、つらいよね』

天音が柔らかく微笑みながら、そんな優しい言葉をかけてくれた。

『僕としては、夢がないことはコンプレックスでもなんでもないと思う。だから、遥がそのことで苦しまなくなれるといいね』

うん、と頷きながら、じわっと目が熱くなった。

天音はいつも、わたしの凝り固まった心を溶かす温かい言葉をくれる。

「ありがと、天音」

『どういたしまして』

彼は微笑んでそう答えた。