「昨日ね、香奈が宿題終わってなくて、写させてって遠子に頼んだんだけど、遠子ったら『ずるはだめだよ』って真面目に注意して、香奈が『遠子のくせに生意気!』って言い返したら、遠子、『いじめられてたから仕返し』って笑ってね、もうおかしくって笑い止まらなかった。ネタにできるなんて、遠子も強くなったなーって。こないだまでぎすぎすしてたのに、もうすっかり元通りっていうか、元より仲良くなったの。ほんとよかった」

笑いながら言ったときだった。天音がふいにペンを出して、ノートに何かを書いて見せてきた。

『遥、明るくなったね』

意表を突かれて、わたしは口をつぐんで彼を見る。

『前までは、そんなふうに声あげて笑ったりしなかった。いつもにこにこしてたけど、寂しそうだった。本当はそんなに明るいのに、悩んでて笑えなくなってたんだね。仲直りできてよかったね』

「ええ~……そっか、わたしそんなふうだったか。なんか、恥ずかしいな」

『そんなことないよ。誰だってそういうときはあるよ』

その言葉に、思わず「天音も?」と訊きたくなったけれど、呑み込んだ。知りたくても訊いたらいけないことはある。

微笑みだけで彼の言葉に答えて、話題を変えることにした。

「でもね、遠子たちのことが解決したのはよかったんだけど、今度は進路のことで悩んでて」

天音が目を瞬いて、先を促すように頷いた。

「わたしね、夢とか全然なくて……やりたいこともなりたいものもなくて、進路が全然決まらないの。先生はね、具体的な仕事じゃなくてもいいから、趣味とか好きなことに関係するような仕事をとりあえず書けって言うんだけど、わたし趣味とか特技でさえないの」

こういう話をしたのも、天音が初めてだ。情けなすぎて、親にも友達にも言えない。

「休みの日とかも、暇つぶしに本とか漫画とか雑誌読んだり、音楽聴いたり映画観たり、たまにスマホでゲームしたりするけど、どれも全部趣味っていえるほど熱中してるわけじゃなくて、気が向いたときにしてるだけ。仕事にしたいってほどじゃないんだよね」

ふうっとため息が出た。