教室を出たあと、わたしは購買に行くため遠子と別れた。

パンを買って、早くしないと昼休みがもうすぐ終わってしまう、と小走りに渡り廊下を戻っていると、後ろから「遥ちゃん!」と呼び止められた。足を止めて振り向く。

「わっ、彼方くん」

こちらへと駆け寄ってくる、すらりとした体型と、さわやかに整った顔立ち。やっぱりかっこいいな、と懲りずに眺めていると、彼が目の前で立ち止まった。

「急にごめんな。今、時間大丈夫?」

さすが陸上部。けっこうな早さで走ってきたのに、全く息が切れていない。

「うん、全然大丈夫」

全然大丈夫じゃなくても、彼方くんに呼ばれて断るわけがない。

「さっき、もしかして、みんなで話した?」

わたしはこくりと頷いた。彼は、わたしたちの間にいざこざがあったことを前から知っている。

「……どうなった?」

彼方くんが緊張した面持ちで、首を傾げて覗きこんでくる。わたしは笑って頷いた。

「うん。たぶん、もう大丈夫」

そう答えた瞬間、彼方くんがほっとしたように頬を緩めて、満面の笑みを浮かべた。

「そっか……! そっか、よかった。本当によかった」

心から安堵しているのが伝わってきた。きっと、ずっと、本当に本当に遠子のことを心配していたんだろう、と分かった。