「遠子」

香奈と菜々美が外に出たあと、わたしは遠子を呼び止めた。彼女は振り向いて、わたしの意図を察して戻って来てくれる。

香奈たちに「ごめん、先に戻ってて」と告げてから、わたしは遠子と向き合って座った。

「あのね……ごめんね、今まで」

色々な思いをこめて謝ると、彼女はぶんぶんと首を横に振った。

「遥は謝ることないよ」

そうきっぱりと答えてくれた彼女の顔を、じっと見つめる。そうしていると、遠子ってこんな顔だったっけ、と不思議な気持ちが込み上げてきた。

毎日見ていたはずなのに、なぜかものすごく久しぶりに見たような気がした。それだけ、彼女とちゃんと向き合っていなかったということなのかもしれない。

表面上では今まで通りに声をかけていたつもりだったけれど、自分の中で拭いきれない複雑な思いがあって、内心では全然今まで通りなんかじゃなかった。だからきっと、ちゃんと真正面から彼女の顔をちゃんと見ることができていなかったのだ。

「ありがとう」

確かめるようにゆっくりと口にすると、遠子はにこっと笑った。

「……彼方くんのこと」

気がついたら、そんな言葉が口に出ていた。

これまで通り何事もなかったかのように遠子と話をながらも、まるで腫れ物のように避け続けてきた話題。触れないようにして、そのまま水に流してしまおうと、全部なかったことにして忘れてしまおうとしていた。