「笑うな、ばかあっ!!」

香奈が泣きながら怒った顔を向けると、遠子は「ごめん」と焦ったように口許を押さえた。

でも、もう二人の様子からは、昨日までの冷たくてぎすぎすした空気は失われていた。

「ごめんね、香奈……」

「昨日ドラマ見て泣いたから! 涙腺ゆるんじゃってるの! しょうがないでしょ、泣いたって」

「うん、ごめん。でも、あの、いいと思うよ、私もよく泣いちゃうし」

「一緒にすんな、遠子の弱虫泣き虫とは違うから! あたしは泣いても年に一回か二回なんだから!!」

「あっ、ごめん、そうだよね」

感情のままに泣きわめく香奈と、おろおろしたように彼女を見つめる遠子。それをおかしそうに笑って見ている菜々美。

わたしは拍子抜けしてしまった。

もうどうしようもないくらいぐちゃぐちゃに関係が崩れてしまったと思っていたのに、ほんの少しのことで、空気が一変してしまった。たった一言、勇気を出して口にしただけで、こんなにも変わった。

今までのは、なんだったんだろう。

呆然と三人を見つめていると、遠子がふいに背筋を伸ばして口を開いた。

「ごめんなさい。彼方くんと、あの……付き合って……」

最後のほうは少しずつ声が小さくなっていく。どう言えばいいか分からなかったんだろうな、と思った。

遠子の言葉に、香奈がぴくりと眉を上げる。

「そんなこと言ったら彼方くんに失礼じゃん」

遠子が眉を下げて「ええー……」と情けない声を上げる。

「そこ怒ってたんじゃないの……」

「そりゃあ気に食わないけど、仕方ないじゃん。両想いで付き合ったんだから、もうしょうがないじゃん。それは分かってるんだけど、でも、あんたたちが仲良しこよししてるの見せられたら遥が嫌な気持ちなるでしょってこと!」

「ごめん、気をつけてはいたんだけど……」

「詰めが甘いんだよ!」

香奈が唸るように言うと、菜々美が「怖いって、不良か」と笑った。