誰もいない空き教室を見つけて、四人で中に入る。

ドアを閉めると、思いのほか静かだった。遠くから昼休みの喧騒が聞こえる。

ここでなら落ち着いて話ができそうだった。

三人を座らせて、自分も手近な椅子に腰かける。正面には香奈がいた。隣に遠子と菜々美。

ぱっと顔を上げて香奈を見ると、彼女はどこか不安げに表情を歪めた。

「え、何? 何これ。なんか遥の顔怖いんだけど……いつもにこにこしてるのに、なんでそんな顔するの?」

香奈が怯えているのを感じ取って、わたしは慌てて笑みを浮かべた。でも、それでは今までの自分と変わらないと気づいて、表情を引き締める。

「ごめん、緊張してるから」

心臓はいまだに激しく動悸していた。膝に置いた手も震えているし、喉はからからだ。

少しうつむいて、ふうっと息を吐いてから、香奈を見つめる。それから菜々美を、次に遠子を見て、また香奈に視線を向けた。

「あのね……もう、こういうの、やめたいやって思って。やめよう」

うまく言葉が見つからなくて、そんな曖昧な言い方をしたけれど、彼女たちはわたしの意図をちゃんと汲み取ってくれたようだった。香奈がふっと目を落として唇を噛む。

香奈はもともとは明るくて素直な子だから、自分のしていることが褒められたことではないと、きっと自覚していたんだと思う。それでも、あんなふうに振る舞っていたのは。

「……わたしのためだったんだよね。それは分かってるの、ありがとう」

香奈がくっと口許を歪めた。その目にじわりと涙が滲む。それに気づいて、菜々美が香奈の肩に手を置いた。途端に、香奈がぽろりと涙をこぼした。

「だって……嫌だったんだもん。遥はさあ、あたしが会った中でいちばん優しくて可愛くて、遥みたいな子と友達になれたの、あたしはめっちゃ嬉しかったの。自慢だったの」

まさか彼女がそんなふうに思ってくれていたなんて知らなくて、わたしは唖然としてしまった。

「それなのにさあ、遥は昔から仲良しの遠子のこと特別扱いだし。そんなに大事にされてるくせに、遠子は遥の好きな人と付き合っちゃうし。なんなのそれって思うじゃん、許せないじゃん!」

叫ぶように言いながら、香奈は突然うわあっと声を上げて泣き出した。

それがまるで小さな子どもみたいな思い切りのいい泣き方で、なんだかおかしくなってきて、笑いをこらえるのに必死だった。

でも、菜々美が遠慮なく「幼稚園児か!」とつっこんで笑い始めたので、わたしも思わず吹き出してしまう。

すると、遠子もうつむきながら遠慮がちに笑いを洩らし始めた。