「え? 遥……?」

香奈が目を見開いてわたしを凝視する。菜々美も少し眉をひそめてこちらを見ている。

胸がばくばく音を立て始めた。心臓が口から出てきそう、というのはこういう気持ちのことなんだと思う。

これからわたしがやろうとしていることは、きっと彼女たちを深く傷つけるだろう。嫌われてしまうかもしれない。

今までずっと、誰にも嫌われたりしないように、誰の機嫌も損ねないように、周りの顔色を窺っていい顔ばかりしてきたわたしは、敵意を向けられることが何よりも怖かった。

もしかしたら友達をいっぺんに失うかもしれない。もしも彼女たちがわたしから離れていったら、わたしはクラスでひとりきりになって居場所を失うかもしれない。

でも、わたしはもう決めたのだ。変わりたいと思ったから。きっと変われると、天音が思わせてくれたから。

わたしたちの不穏な空気を察したのか、周りの生徒たちが怪訝な顔で様子を窺ってくるのを感じた。

ここで話すのはよくないだろうと思い、わたしは香奈の手をつかんで言った。

「ちょっと……話したいから、ついてきてほしい」

それから、遠子のほうへ目を向ける。

「遠子も」

遠子は「えっ」と声を上げて、香奈と菜々美に視線を走らせる。彼女たちに気を使っているのが分かったから、「いいから」と強く告げて、もう一方の手で遠子の手をつかんだ。

両手で香奈と遠子の手を引き、ひとけのない校舎の端へと連れていく。菜々美は黙ってついてきてくれた。