翌日。わたしは、決意を胸に登校した。

四時間目が終わったあと、三組の教室へ戻る途中に、行動を起こすきっかけが訪れた。香奈たちと三人で階段を下りきったところに、ちょうど遠子が前を歩いていたのだ。

わたしたちに気づいていないらしい彼女は、胸に教材を抱いて廊下を歩いていく。

そして、一組の教室の前でちらりと中を覗きこんだ。彼方くんのクラスだ。

「なにー、望月さん、彼氏に会いに来たの?」

窓の近くにいた女子に話しかけられて、遠子は頬を赤く染めた。

「あははっ、りんごみたい! いつまで経っても慣れないね。羽鳥くん呼んできたげる」

「あ……ありがとう」

彼女は真っ赤な顔でぺこりと頭を下げる。

わたしの隣で一緒に見ていた香奈が、「うわあ」と顔を歪めた。

「なにあれー、マジうざい」

わたしは唇を噛んで、「ねえ」と口を開く。でも、すぐに彼方くんが出てきたので、わたしの目線はそちらへ向いてしまった。

遠子が微笑みながら「はい」と彼方くんに教科書を差し出すと、彼方くんは手を合わせて「ありがとう!」と言って受け取った。彼が忘れ物をしたので貸してあげるのだろうか。

遠子が再び三組に向かって歩き出したとき、香奈が足を早めて彼女に近づいた。菜々美がそれに続く。わたしも慌てて後を追った。

「ちょっと、学校でいちゃいちゃしないでよね」

背中から厳しい声をかけられて、遠子がびくりと振り向いた。

「見せつけてるつもり? いつも言ってるけどさ、ちょっとは遥に気い使えないの? 何回言ったら分かるわけ?」

「ごめん……」

遠子にだって事情や理由があったはずだ。でも、彼女は言い訳ひとつせずに、ただ批判を受け入れて謝る。何も悪くないのに。

わたしは大きく深呼吸をして、声を上げた。

「もう、いいよ」

思ったよりも大きな声が出て、香奈と菜々美、そして遠子が驚いたような表情で三人同時に振り向いた。

「もういいから。もう、やめよう」