せっかく視界に入れないようにしていたのに、わたしは結局、彼の姿をはっきりと見てしまった。

その瞬間に、激しく後悔する。

彼は一人ではなかった。小柄な女の子が隣に立っている。

「……遠子もいるじゃん」

香奈が低く呟いた。

わたしは喉が引きつったように何も言えなくて、ぐっと唇を噛んだ。

仲睦まじい様子で微笑み合いながら話している二人。

彼女――遠子は、わたしの小学校からの親友。

そして彼――彼方くんは、わたしの好きな人。

二人は、少し前から付き合っている。

「……あ。私、忘れ物」

唇から、その場しのぎの嘘が飛び出した。

でも、わたしが踵を返す前に、香奈がわたしの腕をとってずんずんと前へ歩き出す。

「遥が気をつかう必要なんてないでしょ。行くよ」

わたしは肯定することも否定することもできないまま、引きずられるようにして歩いた。

「遠子ー、今日もラブラブだね」

香奈が赤いリップを塗った唇を笑みの形にして、通りすがりに遠子の背中に声をかける。

肩をびくりと震わせて、遠子が振り向いた。

目が合う。

彼女は気まずそうに顔を歪めて、俯いてしまった。