わたしは、ふっと笑って続ける。

「びっくりするよね。どこの漫画?って感じだもんね。友達と同じ人好きになるなんて」

天音はまた苦しそうな顔をした。

「四月からずっと好きだったの。それで、文化祭の日に頑張って告白したんだけど、だめだった。実は彼方くんは遠子のことが好きで、本当は遠子も彼方くんのこと前から好きで、二人は付き合い始めた」

言葉にするとこんなに簡潔なことなんだ、と驚いた。あんなに苦しかったことが、こんな一言で終わってしまうなんて。友達と同じ人を好きになったけれど、自分は振られた。友達は相思相愛だったから、付き合い始めてハッピーエンド。それだけの話。

そう考えると、こんな大袈裟に語ることじゃなかったな、と恥ずかしくなってきた。

「なんかごめんね、こんな話聞かされても困るよね……」

あはは、と笑って隣を見ると、天音はふるふると首を横に振って、それからペンを持った。

『つらかったね』

柔らかくつづられた文字を見た瞬間、目の奥が熱くなった。なんて優しい言葉だろう。

確かにつらかった。でも、もっとつらかったのは遠子だと思う。

だから、天音にそんな優しい言葉をかけてもらう資格は、わたしにはない。

「……ほんとはね、薄々分かってたんだ。遠子は彼方くんのこと好きなんじゃないかなって。でも、後から好きになったくせに、とか思ってるわたしがいて……遠子が諦めてくれるように、わざと彼方くんのことが好きって口に出して、遠子に協力してもらったりして……遠子はわたしの好きな人だからって自分の思い押し殺して我慢してくれてたの。本当に最低でしょ、わたし」

涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。わたしには本当は泣く資格さえない。