「その友達、遠子っていう子なんだけどね、大人しくて優しくて、可愛い女の子なんだ。小学一年生のときに同じクラスになって、すぐに仲良くなって、中学も高校も同じ。こんなに長く続いてる友達、他にいないし、それに遠子って本当にいい子でね、嘘つかないし適当なことは絶対に言わないし、控えめでなんだけどちゃんと自分を持ってて、言うべきことはちゃんと言えるのがすごいなって思ってて、だから、すごく信頼できるっていうか、大事な友達なんだ」

まとまりのないわたしの話を、天音は時々頷いて相づちを打ちながら、淡い茶色の綺麗な瞳をわたしに向けて、真剣に聞いてくれている。それに励まされて、わたしは膿を出すように話し続けた。

「中学のときにね、遠子が、なんていうか……いじめって言うのかな、それほどひどくはなかったのかも知れないけど、嫌がらせみたいなのされてたって知って……」

いじめ、という言葉を口にした瞬間、ノートの上に置かれた天音の指がぴくりと反応したのが分かった。目を上げると、彼は唇を噛んでいる。

優しい天音は、きっと誰かがいじめられているのを見るだけで心を痛めるのだろう。もしかしたら、こんな話は聞きたくないだろうか。

思わず口をつぐんだけれど、彼は先を促すように頷きかけてくれた。

「そのときはね、遠子とは違うクラスだったし、小五ぐらいから別のグループに入ってたから遠子とは話さなくなってたんだけど、たまに見かけたとときにすごく暗い顔してて、気になって」

当時の遠子の様子を思い出すと、今でも胸が痛くなる。いつも控えめで優しい笑みを浮かべていた彼女が、ひとりきり青ざめた顔で、小さな身体をさらに縮こめるように、教室の片隅に座っていた姿。

「あの頃は、遠子は相手に気つかっちゃって自分では嫌だって言えないだろうって思ってたから、なんとか助けてあげなくちゃって思ったんだけど、うまくできなくて。自分がいじめの標的になるのが怖かったんだよね、やっぱり。だから、連絡先聞いてメールし合ったり、学校でもなるべく声かけるようにするくらいしかできなくて。しばらくしたら嫌がらせもなくなってきたみたいで、遠子も普通な感じになってきたから安心したんだけど、結局何もできなかったこと、すごく後悔してたんだ」

天音が小さく頷く。ペンは下ろしている。わたしの話に集中してくれているのだ。

確かに今は何か言葉をかけてもらうより、ただ聞いてもらっているほうがとても話しやすかった。

「だからね、同じ高校でクラスも同じって分かったとき、もしまた遠子が苦しんだりすることがあったら、今度こそ力になろうって思ってた。今思えば、思い上がりだし上から目線だなって思うけど……でも、遠子のこと大事だから、そうしたいなって」