二人の姿が見えなくなるまで目で追って、わたしはのろのろと立ち上がった。

頭が真っ白で、胸が苦しくて、どうすればいいか分からない。ただ無闇やたらに足を動かす。

スマホが鳴って、震える手でポケットから取り出して見ると、お母さんからのメッセージがある表示されていた。迷わず『あとで見る』を選択する。

そして、何も考えられないまま、何か操られるように天音の名前を呼び出す。通話ボタンを押した。

天音に電話をかけるのは初めてだった。彼は話せないから、電話をかけても一方通行の迷惑にしかならない。

でも、こんなに震える指では文字は打てない。それに、悠長にメッセージを書く余裕はなかった。もう限界だった。

二回コールして、通話がつながった。受話器に耳を押し当てる。当たり前だけれど、何も声は聞こえない。

『……天音?』

かすれた声で呼びかけた。応答はない。

でも、彼は聞いてくれていると、分かった。

「天音……会いたい」

かすかな呼吸音だけが聞こえてくる電話の向こうに、必死に語りかける。

「忙しいのにごめん。何時になってもいいから……待ってるから、会いたい」

絞り出すように言うと、ぷつりと通話が切れた。

瞬間、絶望感に襲われる。きっと迷惑がられたんだ、と思った。天音の都合も考えずに、身勝手なお願いをしたから、呆れられた。

いつもなら、もっと相手の気持ちや都合を考える。でも、今日は頭が全く働かなくて、自分のことしか考えられなかった。

どうしよう、天音にまで見捨てられたら、わたしはこれから誰に助けを求めればいいんだろう。

うつむいて頭を抱えたとき、ぶるっとスマホが震えた。

ばっと取りつくように画面を見ると、天音からのメッセージが届いていた。

『桜の公園で待ってて。今すぐ行くから』