「でも楽しそうだよな、いつも」


 それは僕の本心だった。橘はいつも楽しそうだ。笑顔を完全に作っているとは思わない。癖になっているとは思うけれど、橘はいつも、楽しそうだ。


「楽しいよ。私いつも、楽しい」

「へえ」

「反応うっすいなー」

「……見てればわかる。橘はいつも楽しそうだよ」


 皿の中のナポリタンがあと少しになったところ。橘のサンドイッチはあとひとつになっていて、バナナジュースもイチゴオレもグラスの半分に達している。


「春瀬は人のこと、本当によく見てるよね」

「……まあ、趣味みたいなもんだから」

「春瀬はさあ、すごいよねえ」

「は?」

「なんていうか、我が道を行ってるっていうかさ。周りに流されないで、いつもちゃんと自分を持ってるの、すごいなあって私思ってたよ」

「……なんだ、それ」

「そのまんま。春瀬すごいなって、ずっと思ってた。だって普通のヒトって、絶対に周りを気にしちゃうじゃん。私がそうだもん。隼人も、ミサだってユウカだって、そうだよ。人の顔色伺いながらみんな生きてる。春瀬みたいにひとりでいるのが本当は、みんな怖いんだ」


意味が分からない、と思う。

僕が人間観察が好きなのは、周りの目をいつも気にしているからだ。ひとりでいるのが好きなわけじゃない。ひとりでいなきゃ不安だった。ずっと、周りに溶け込むのが怖いだけだった。

人の顔色を窺って、相手がどんな人間かわからないと関わることが出来ない。前髪で自分の顔を隠しているのは、他人に自分の感情を読み取られたくないからだ。

たぶん、誰よりもいちばん、僕が臆病で弱いのに。橘はまるで僕がとても強い人間のように話す。



「……自分なんてもの、本当は持っていないのに?」

「え?」

「自分なんて、誰よりいちばん、僕がわかってないのにな。周りを気にしてないんじゃなくて、人一倍周りに敏感だからこそ、誰とも関われないんだよ。……僕がすごいわけがない。橘や唐沢の方がずっと、すごい」



 言い終わってハッとした。

僕は何を口走っているのだろう。今までこんなこと、誰にも言ったことが無かったのに。まあ、言えるほど親しい人間がいなかったというのも理由のひとつではあるけれど。

 橘の顔を見るのが怖かった。いきなりこんなことを言われて、彼女はどう思っただろう。いくら橘が変わっているとはいえ、こんな話、ましてやただのクラスメイト、いやそれ以下の僕のひねくれた話を、彼女はどう受け取っただろう。


 恐る恐る顔をあげると、「ふふ、」と橘が声を漏らした。僕はそれに驚いたというよりは拍子抜けしてしまって、笑いだす橘をポカンと見つめることしかできない。



「はは、ごめんごめん。だって、春瀬が自分のこと話すなんて、なんか嬉しくって」