ヘンだよね、ともう一度言ってから橘は笑う。それは、いつも教室で見る橘千歳の笑顔だった。この世界の汚い部分なんてなにも知らないような、馬鹿みたいに明るくて無邪気な笑顔だと、僕はずっとそう思っていた。

けれど違う。きっと違う。どうして僕は彼女の"癖になっただけ"のこの笑顔を、今まで輝いたものだと思い込んでいたのだろう。



「……今日初めてしゃべったのにな」

「えー、初めてじやないよう。たまーにしゃべったことあったでしょ。中学校から同じなんだからさー」

「義務的なことくらいだろ」

「春瀬っていっつも静かだもんねえ。もうちょっとこう、協調性みたいなもの身につけた方がいいんじゃないのー?」

「他人と関わる方が面倒くさい」

「ヘンなの。あれ、これじゃ私も春瀬もヘン同士だね。オソロイだ」



自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、僕が黙っていると顔を赤くして「なんか言ってよ!」と怒り出す。僕はそれに不覚にも笑ってしまって、少し悔しかった。



「なあ、あんまり信頼しすぎない方がいいんじゃないの」

「え、なに、春瀬のこと?」

「ああ」

「ダイジョーブ、春瀬には話せる友達わたししかいないでしょ?」

「………」