雪、だった。大阪では降っていなかったのに、京都ではうっすら積もるぐらいには降っていた。
 

そして予想よりも寒い。
私はマフラーをきつめに巻き直して、どこか人の少ないところを探しに歩き始めた。
駅の外は多いといっても、人との距離が充分測れるぐらいには濃度が薄れていた。
 

単身京都に来たのは初めてだ。
といっても私も高校二年の十七歳。親がいなくたって電車だって乗れるし知らない土地だって歩ける。
むしろ、今は一緒になんていたくないから、叔母が京都に誘ってくれたのは嬉しかった。半分。
 

残りの半分は、そう、親に対する失望かもしれない。
あの人たちは、引きこもって学校に行かなくなった私のことをどうしたら良いかわからなくて、叔母に丸投げしたんだ。
失望、ということばが適切かどうかはわからない。

でもとりあえず、私は見捨てられたんだ、ということだけはまざまざと思い知った。
 

といっても、そもそも両親に何かを期待したことがない。
あの人たちが私を愛していないことぐらい、幼稚園のときにはもう知っていた。

私はたぶん、ただのつなぎなんだ。パン粉とか卵とか、小麦粉みたいなやつ。まさにあれ。
子はかすがい、なんて言うけれど、私は夫と妻をくっつけておく小麦粉なんだろう。
卵のほうがいいかな。どうでもいいか。
 

それでも、家族として私のことをすこしぐらいは、助けてくれるんじゃないかと思っていた。
まがりなりにも二人の血を受け継いだ娘なのだ。
普段どんなに素っ気なくたって、こんなときぐらいは、なんて希望を抱いていた。

だけど現実はそんなに甘くない。
すがろうとした私に向けられた色は、黄色だった。
 

今頃両親は、胸を撫でおろしているのかもしれない。
いや、きっとそうなんだろう。

私のことを聞いたであろう叔母から電話がかかってきたときの、そわそわとしながらも遠慮がちによそ行きの声を出している母の顔は今でもはっきり覚えている。
帰宅して話を聞いた父親の声の色もそう。
自分たちではどうしようもできなかったことを、叔母ならなんとかしてくれる、とでも思っているに違いない。

じゃあ私は?
もしかしてこの状況を打破してくれるようなきっかけがこの冬休みにあるかもしれない、なんて期待してるんだろうか。
 

改めて考えたら、からっからに乾いた笑いが出た。
 

たった三週間でいったい何が変わるというのだろう。
私も、両親も、ただ逃げたいだけだ。
私が変わるような何かが、あるはずもない。
 

雪が、しんしんと降り続けていた。一定のリズムで、変わらず、ずっと。