ぽかんとする靖人に、手振りで教える。



「試合中、靖人はこう、前向いてるでしょ、その右」



なんでか靖人は、戸惑ったような顔で私を見て、黙ってしまった。

あれ…まさか間違えてないよな。

不安になった頃、靖人が口を開く。



「…あのさ、俺」



けどすぐに、なにかに気がついた様子で、私の背後にはっと視線を投げると、バッグを持って腰を上げた。



「帰るわ。じゃあな」

「え、ちょっと」



いきなり?

追いかけるタイミングも逃し、アイスも食べかけだしでおたおたしていると、ポケットで携帯が震える。

知らない番号。

もう、誰だよこんなときに。



「はい」



一瞬間があって、確かめるような声がする。



『郁?』



えっ…。

頭がついていかず、思わず意味もなく立ち上がった。

嘘、嘘。

健吾くんだ。



「け、健吾くん…」

『さっきの、すげえよそよそしい声、なに?』

「え、違、あの、携帯壊してね、メモリ全部消えちゃって」

『マジか』



同情しているような、あきれているような声。



『なあ今、家? 一瞬出てこられないか』

「え、健吾くん、どこにいるの?」



言いながら家のほうを振り向いて、どうして靖人が急にいなくなったのか、わかった。

家の前に、健吾くんの車が停まっている。