「今日は勝ちたかったんだけどなあ」

「なんで?」



靖人がじっと私を見ながら微笑んで、それからふと気づいたように、ぶら下げていたコンビニの袋を差し出してきた。



「誕生日おめでと」

「え、明らかに今思いついた感じだったよね」

「いらないんなら俺が食う」

「いや、いただきます」



袋の中には棒アイスが入っている。

2個あるということは、もしかしたら本当に最初から、私にくれる気だったのかもしれない。

靖人がまだ家に入りたくないと言うので、家の前の空き地に行き、物心つく前から置いてある、漫画のような土管に腰かけた。



「なんで家に入りたくないの?」

「入ったら、そこでほんとに終わる気がするだろ」



そんな感傷が、靖人にもあったことに驚いた。

帰ってユニフォームを脱いだら、二度とそれを着ることはない。

確かにそれは、確実すぎる"終わり"なのかもしれない。



「大学では野球しないの?」

「しないだろうなあ。野球そのものってより、部活の空気が好きなんだよな、俺」

「なるほど」



わかる気もする。

暮れてきた空を見上げながら、ソーダ味のアイスを舐める。



「野球してる靖人が見られなくなるのは、寂しいな」

「"右が一塁"レベルのくせに」

「合ってるんだから、いいでしょ」



ついに今年、なっちゃんの実況中継のおかげでだいぶ野球に詳しくなった気がしているのに、水を差すな。

さっさと食べ終わった靖人が、棒をくわえて笑う。



「どこから見て右だよ」

「靖人に決まってるじゃん」

「え?」