健吾くんが帰る可能性のある、一番早い時間に部屋のインタホンを鳴らしてみたけれど、応答はなかった。

思い立って裏の駐車場に行ってみると、やっぱり車がない。

今、7時。

近くのコンビニで夕食にパンを買って、部屋の前よりは目立たないだろうと、駐車場の輪留めに座って、食べながら待った。


11時に、私のほうにタイムリミットが来た。

兄が帰ってくるまでには、家にいないといけない。

最後にダメもとでもう一度インタホンを鳴らし、むなしく部屋に響くのをドア越しに聞いてから、なにか手紙でも残していこうかと考えた。

でも、しつこいかと思って、やめた。


私と会わない日は、こんなに遅くなるんだ。

本当はこのくらい仕事したいのに、私が部屋に行くって言えば、帰ってきてくれていたんだ。


なのに変なことで駄々こねて、ごめんなさい。

健吾くんにはどうにもできないことで疲れさせて、ごめんなさい。


会いたいよ。

会いたい。

届け、と願いながら、無機質なドアに、額をごつんとぶつけた。





三回戦で、靖人たちは負けた。

初回に取られた1点をどうしても返せず、つらい試合だった。

3年生は、これで引退。


バイトをしてから夕方に家に帰った私は、兄の部屋の雨戸を閉めようとして、家の前の通りを歩いてくる靖人を見つけた。

1階に駆け下りて、玄関を飛び出す。



「靖人!」

「うおっ、びっくりした」



部室で、みんなと泣いてきたんだろうなあって顔をしている。

試合が終わったときも、選手たちは泣いていて、靖人はしっかりしているほうだったけど、時折目元を指で拭っていたのを見た。



「…お疲れさま」

「うん」

「靖人が泣いてるの見たの、小学校以来くらいかも」

「泣いてるとかわざわざ言うな」

「恥ずかしいんだ」



からかうと、おでこを肘でぐいと押される。