そんな真由さんから見たら、独学でここまで来ている兄が、もしかしたらかえって憧れなのかもしれない。

照れくささを紛らすように水を飲む顔を、まじまじと見る。

別に特別ハンサムというわけじゃないけれど、清潔感があっていかにも頭がよさそうで、感じのいい顔。

背はたぶん健吾くんと同じくらいで、身体を使う仕事をしているせいか、兄のほうが若干たくましい。


そうかあ。

お兄ちゃん、幸せなのかあ。

私は無性に嬉しくなり、新しい携帯で靖人にメッセージを送ろうとして、メモリがすっからかんなのを思い出した。





土曜、日曜と大雨が続き、翌週にもつれ込んだ第二回戦は、先日の勢いを途切れさせることなく、快勝に終わった。



「三回戦はもう、夏休み直前だね」

「その前に模試だ」



日がかげっていたおかげでいくぶん楽だった応援から、学校に戻る足取りも軽い。



「はいなっちゃん、今日の靖人の見どころを」

「そうですね、6回裏で盗塁を刺したのが見事でした。あの2年生は俊足で有名なので、あそこで相手校の気持ちをくじいたのがのちの勝利に大きく貢献したと思います」

「なるほど。打者としてはいかがでしたか」

「7回以降は監督の方針で、点を取るというよりは好きに打たせていたようです。正直、そこまでの実力差はないのでどうかなと思いましたが、そんな中でも小瀧くんはやはり抜きんでて頭脳派で、相手の嫌がるタイミングで嫌がる打球を送るという容赦ない姿勢が」



オタク。

午後の授業をひとつ受けた後、職員室に行くために渡り廊下を歩いていると、野球部のバスが帰ってきているのが見えた。

グラウンドのほうに行ってみると、途中にある野球部の部室が開けっ放しになっていて、中ではもみくちゃになりながら部員が爆睡している。

何人かは部室の外で、地面に転がってバッグを枕に寝ていて、その中のひとりが靖人だった。



「お疲れ」

「ん」



そばに寄ってそっと声をかけると、顔を覆っていたキャップの陰から、眠そうな目がこちらを見上げる。



「おめでとう、今日はスカッと勝てたね」

「なんでパンツ見せてんの?」

「見せてないよ!」