景山さんは驚きながらも、すぐにメニューを開いた。



「私はこちらの、白桃とヨーグルトのタルトが好きです」



絶対それを選ぶと思った。



「へえー、どうしてですか?」

「え…」



突っ込むと、色白の頬を染めて、一生懸命説明してくれる。



「その、さっぱりしていてこの季節に合いますし、生クリームの代わりにヨーグルトを使っているので、カロリーも控えめで」

「でもそれだと、こっちのさくらんぼのムースもたいして変わらないですよね」

「えっと、あの…」



真っ赤になってうつむいてしまった。



「この桃のタルトは、は…治樹さんが考えたメニューなので…」



うん、知ってる、家で作ってたもん。

兄の目も怖いので、このへんで解放してあげよう。



「じゃ、食後にアイスティとそれお願いします」

「かしこまりました」



逃げるように去っていく姿を見てから、兄に視線を戻した。

こっちも赤い顔して、私をにらんでいる。



「お前、気づいてたな」

「つきあってるの? まだそこまでいってないの?」

「子供が首突っ込むな」

「景山なにさん?」

「…真由(まゆ)」



お、口調からして、普段はこっちで呼んでいるな、たぶん。

てことはもう、おつきあいしているんだろう。

なんだよー、やることやってんじゃん、お兄ちゃん。



「学生さん?」

「いや、調理学校を去年出て、今は見習いみたいなことしてる。キッチンにも入るし、経営の勉強してるから、メニュー作りとか仕入れのアシスタントもやるし」

「すごいね」

「すごいよ、吸収も早い」