恐縮する兄を尻目に、私は厚意に甘える気満々で窓際のテーブル席に着いた。

夏の夕暮れが、街並みをピンクに染めている。

本当は兄が働いているときに来たいんだけれど、そうすると私を連れてきてくれる人がいない。

シェフをしているところ、見たいなあ。



「いらっしゃいませ」

「あっ、どうもです」



女の人が水を持ってきてくれた。

新顔さんかな、見たことのない人だ。

といっても、最後にここに来てから一年以上たっているので、ホールスタッフの半分くらいが知らない顔だ。



「あ、お疲れさん」

「あっ、治樹さん、いらっしゃい」



店長さんと話していた兄がやってきて、私の前に座った。

女の人がトレイを抱いて、にこっと微笑みかける。



「妹さんですか?」

「そう、郁実」

「景山(かげやま)です、いつも治樹さんにお世話になってます」

「いえっ、こちらこそ兄がお世話になってます」



ふたりでぺこぺこと頭を下げ合っていると、「なにやってんだ」と兄があきれる。



「なに頼むかなあ…」

「あっ、そういえば店長がですね」



景山さんが身を屈めて、兄に優しく耳打ちをした。

スタンドカラーの白いシャツに黒いさらっとしたパンツ、黒いエプロンというのがここの制服だ。

腕まくりをした袖からは、華奢で真っ白な手首が出ている。

兄と顔を寄せ合って、楽しそうに話すのを、我ながら下世話な目つき丸出しで見守った。



「なので、今日のおすすめをぜひとのことで」

「そうだなー、じゃあ勉強のために、それひとつ。郁実は?」

「クリームソースのハンバーグ!」

「メニュー見るふりくらいしろよ。がんばって日替わりとか考えてんだからさ」

「あとシーフードマリネのサラダ」

「聞け」

「ケーキは、景山さんが好きなのがいいなあ、教えてください」

「えっ?」