駅ビルまで出て、ショップで機種変更の手続きをした。

カードだけでも生きていたらと一縷の望みをかけていたものの、やっぱりダメになっていたため、これも新調した。



「ほんとごめんね…」

「気にするなって、俺、最近給料上がったし」

「そうなの!」

「キッチンの上の人が辞めちゃってさ。繰り上がった」



外食産業はブラックだと騒がれるので心配していたんだけれど、兄の職場は、どうやらそうでもないらしい。

大手チェーンでもなく、県内に数か所の店舗を持つだけのレストランで、決して安くはないけれど、そのぶんいい食材と凝ったお料理で、お客様満足度は高い。

お酒も出して深夜まで営業する店舗と、朝からディナーの時間までの店舗とがあって、スタッフさんは基本両方を兼任している。



「資産家のオーナーが道楽でやってるような店だからな」

「お兄ちゃんも、いずれ店長さんになるかなあ」

「どうかなあ」

「そしたら私、バイトで雇ってね」

「それで思いついた、出てきたついでになにか食ってこう」

「ほんと!」



仕事が不規則なおかげで、兄と外食できる機会は、なかなかない。

お給料が上がったと聞いて安心したのもあり、喜んで飛びついた。



「ねえ、それならお兄ちゃんのお店、行こうよ」

「えー? 俺、できたらよその店を偵察したいんだけど」

「いいじゃん、あのクリームソースのハンバーグが、今でも夢に出るんだよ」

「どんだけ気に入ったんだよ」



お願い、と腕にまとわりつくと、ようやく承諾してくれた。



バスで少し行ったところにある兄のお店は、ログハウスのような外観で、中は高い天井でファンがゆっくり回っている、ゆったりとした造りになっている。

席の確認をするために事前に電話を入れておいたので、着くなりスタッフさんたちが歓迎してくれた。

店長さんはひげをセクシーに整えた、40代バツイチの二枚目だ。



「いらっしゃい、4卓整えてるから」

「そんな、カウンターでいいですよ」

「お前だけならそうするけど、妹さんもいるんだろ。せっかくなんだから、落ち着いて食べてもらえよ」