「普通の洗濯しかしてないよ」

「柔軟剤入れすぎたとか」

「いつも通り…あっ」



そうだ、もしかして。



「洗濯槽をきれいにしたんだよね、そのせいかも」



兄が取り込んでおいてくれた洗濯物を確かめてみる。

いつもより格段に香りがきつい。

最近うっすら感じていた生臭さみたいなものがいっさい消えて、そのぶん洗剤や柔軟剤の香りが効きすぎている感じだ。



「へえ、こんなに変わるものなのか」

「初めてそんなとこ掃除したからさ、汚れ半端なかったよ。これからは定期的にやることにする」

「今度俺にもやり方教えて」



手に持ったついでに洗濯物を何枚かたたもうとしたとき、テーブルの上の、バラバラになった携帯が目に入った。

そろそろ乾いているだろうか。



「どうした、それ」

「掃除してるとき、洗濯機の中に落としちゃって」

「あらら、動きそうか?」



どうだろう…。

電池パックやカードを元通りに挿して、祈るような気持ちで電源を入れてみる。

なにも起こらない。


心細さに、手が震えた。

こうしている間にも、健吾くんから連絡が来ていたりしたら。

私のほうに話す意思がないと思われていたりしたら。

たぶん青い顔をしていた私の隣に、兄が座った。



「ないと不便だろ、新しいの買うか」

「でも…」

「復活しても、一度水没したんだったら、早めに替えたほうがいいし。これから一緒に行ってやるよ」

「ごめん…」



不注意で、無駄なお金使わせちゃって、本当に申し訳ない。

しょげる私の頭を叩いて、「行こう」と兄が笑った。