ライターを何度擦ってもつかなかったので、丸い小さなガラスの器に入ったキャンドルを持ち上げて火を移した。

痛そうに微笑んだ唇から、震える煙が吐かれる。



「残酷な奴」



一緒にもれたつぶやきが、夕暮れてきた路地に散った。


健吾くん、私ね。

この間、あまりに埒もないことだから、最後まで口にしなかったんだけど。

ほんとは言いたかったんだよ。


"はずみ"とか"もう絶対ない"とか、そう思ってるのは健吾くんだけなんじゃないの、って。

もしかして美菜さんのほうは、今でも、って。

それこそ言っても仕方ないことだったから、口を閉ざして正解だったと、今も思っているけどね。


──ケン。犬だから

──俺の名前じゃねーか


でも、ほら。

健吾くんが思っているほど、終わった話じゃないんだよ。

やっぱり、"現在"の話だったの。

私の言った通り。





私たちの学校は公立らしく、自習室以外にクーラーはない。

暑さにうだりながら、野球応援に使ったうちわで顔を仰いでいると、担任が入ってきた。



「この間の校内模試の結果、返すぞ」



すぐにさくさくと生徒を呼び、ぺらっとした紙を配りはじめる。



「古浦」

「はい」

「まあ、一喜一憂するなよ、長い目でな」



え?

受け取った紙を見て、ひやっと背筋が寒くなった。

これまでになく順位が低い。


あれ、なんで?

手応えがなかったわけじゃなかった。

むしろあったような気もしていたのに。


ふらふらしながら、力なく席につき、じっと順位表を眺める。

苦手な英語だけじゃなく、全体的にまんべんなく低い。


これ…一番怖くない?

解けなかったって自覚があるならまだしも、そうじゃないのにできていないって。

これから、いったい自分のなにを信じればいいんだろう。

急に、息がしづらくなったような感覚に襲われた。