「郁実ちゃんの高校、勝ったじゃない」

「そうなんですよー、学校中沸いてます」

「あの強豪に勝つってすごいよ。今年は番狂わせがあるかもね」



店長さんの言葉に甘えて、タダでケーキとドリンクをもらい、制服に着替えてから美菜さんと同じテラス席につく。

まだ日はあるけれど、ディナータイムに向けて各テーブルにはムーディーなキャンドルが灯されている。

ていうか、私がさっき最後の仕事として火をつけて回った。



「小瀧さんの息子さん、野球部だったよね?」

「はい、正捕手で、あの試合も出てましたよ」



ここで再び、なっちゃんから聞いた通りに知ったかぶりを披露すると、美菜さんが腕を組んで、うんうんとうなずいた。



「それ、監督の采配も勇敢だし、そこまで信頼させた靖人くんもすごいね。器用で舞い上がらない選手なんだろうね」

「あれ…もしや野球好きですか」

「けっこう好き。いくと遠藤と、東京まで観戦に行ったりするよ」



おおう…。



「うち女子高だったからさ、この季節になると、野球応援のある高校がうらやましかったなあ」

「他校の野球部の子とつきあうとか、なかったんですか?」

「実はつきあってた」



どれだけ野球好きなんだ。

そう笑うと、「違う違う」と恥ずかしそうにする。



「その子の影響で野球が好きになったの」

「意外ですね、そんなに影響受けやすいなんて」

「ほんとだよね。染まりやすかったなあ、あの頃って」

「あ、煙草吸ってください、どうぞ」



美菜さんが頬杖をついて、通りをぼんやり見たとき、ふと気がついて灰皿を勧めると、驚いた顔をされた。



「まさに今、吸いたいなと思ってたの、よくわかったね」

「なんとなく」

「いくがかわいがるの、わかっちゃうな」



美菜さんの煙草の箱は、パールピンクで細長い、女の人らしいデザイン。

火がつくと、柑橘系のさわやかな香りがする。