「…お疲れさま、かっこよかったよ」

「一塁と三塁の区別もつかないくせに、なに言ってやがる」

「そのくらいわかるよ、右が一塁でしょ!」

「右って」



くすくす笑う振動が、身体に伝わってくる。

背、おっきくなったなあ。

腕とかも、なんかもう、男の人だね。


"まっさらな奴"って、こういうの、健吾くん?

もしも今ここに居合わせても、やっぱり怒ってはくれないのかな。

所詮、高校生同士のじゃれ合いって、思うだけなのかな。


…ん?

なんか急に、重く…。



「ちょっと靖人、寝てない?」

「はっ」



徐々に体重をかけられて、ふらつきはじめていた私から、靖人ががばっと顔を上げる。

ほんとに寝てたな、こいつ。

眠そうに半目になっている靖人の腕を叩いて、目を覚まさせた。



「おばさんがごちそう作って待ってるよ」

「お前も来んの?」

「今まで手伝ってたの。今は買い出しにスーパー行くとこ」

「アイス買ってきて」

「了解」



ついでに私のも買おう。

手を振る靖人と別れ、スーパーに向かう。


ふとグラウンドの匂いがして、自分の身体からだと気がついた。

靖人に抱き寄せられた肩が熱い。

誰も予想していなかった勝ちを手に入れて、テンションが高くなっているのはわかるけれどもさ。

驚かせないでよ、と心の中で文句をつけながら、路地を走った。





学校帰り、大通りから少し入ったところにある、トロピカルな雰囲気の浮かれたカフェに向かった。

赤のギンガムチェックのクロスがかかったテラス席には、シェード越しの柔らかな日差しを楽しむ人たちが座っている。

店内に入ると、俺サーファーです、と全身でアピールしているような見た目の店長さんが気づき、手招きしてくれた。