「一試合で終わるのはさみしいよなあ」

「奇跡を起こしてよ、正捕手さん」

「じゃあ見に来いよ」

「平日なら、どうせ全校生徒で行くでしょ」

「土日でも来い」



…なにむきになってんの。

門灯の灯りの中、靖人の顔を見上げる。

小学生の頃までは、確実に私よりちっちゃかったのに。

今じゃもう、完全なる男だ。



「わかったよ」

「あ、待て、あのリーマンと来るとか、やめろよ」

「誰と行こうが私の自由でしょ」

「絶対やめろ、それなら来なくていい」

「あんたもしや、私のこと好きだね?」

「どうだっていいだろ、とにかくあいつは連れてくんな」



強靭に言い張る靖人を、はいはいと流して門を開けた。



「お兄ちゃんと行くよ、それでいいでしょ」

「おーい、なにやってんの」



のんきな声が飛び込んできた。

一台の原付が気の抜けた音を立ててやってきて停まる。

噂をすれば、兄の治樹(はるき)だった。

飲食店で調理の仕事をしていて、シフトによって夜じゅう帰ってこなかったりもする。



「お帰り、お疲れさま」

「おう…って、郁実(いくみ)、まだ制服?」



兄は人の好さそうな顔をきょとんとさせて、私の恰好を見た。

あっ、しまった。

こうなる前に着替えようと、急いで帰ってきたのに。


うまい説明を探していると、靖人と目が合った。

その靖人が口を開く。



「今までうちで勉強してたんだよ、な」



身体の陰で背中をつつかれて、はっとした。